着床不全の新しい治療法 GM-CSF2017.04.26更新
<胚盤胞と子宮内膜とサイトカイン>
胚盤胞と子宮内膜の情報伝達は、
妊娠や特に着床を開始する重要なファクターです。
サイトカインは胚盤胞と子宮内膜のコミュニケーションを促すと考えられています。
1.GM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)とは?
GM-CSFは、主に女性の胚盤胞や子宮内膜などで
自然に分泌されるサイトカインの一種で、
細胞の増殖や分化を促進します。
2.サイトカインとは?
細胞が産生する活性タンパク質のこと。
様々な種類があり、細胞の増殖・分化・機能の発現などに関与しています。
<染色体に問題が無い胚盤胞移植の出産率は?>
アメリカ生殖医学会(ASRM)やヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)において、
染色体に問題がない胚盤胞を移植しても
出産率は60~70%程度であることが多数報告されています。
<なぜ、染色体に問題が無い胚盤胞を移植しても妊娠継続しないのでしょうか?>
妊娠が継続しない(流産)の原因を突き止めることは容易ではありません。
妊娠した女性の40%は、流産を経験されているといわれています。
流産は、染色体だけでなく遺伝子や子宮の異常など様々な要因が考えられます。
また、着床不全の原因を突き止めることも容易ではありません。
現在、着床時期の胚盤胞と子宮内膜の情報伝達物質である
サイトカインの欠乏やそのバランスの異常も流産や着床不全の要因の一つと考えられています。
当院附設の生殖発生医科学センターでは、マクロファージ等の他大学との共同研究により、
多様なサイトカインの中でも
細胞の増殖や分化を促進するGM-CSFが
着床時期に最も重要なサイトカインの一つであると考えております。
<GM-CSFと着床とは?>
通常は着床時期にGM-CSFの発現量が増加しますが、
着床不全の方や流産を繰り返す方ではこのGM-CSFの発現量が少なく、
GM-CSF濃度は低いままのことがあり、
着床不全や流産の原因として考えられています。
また、月経周期や加齢により、GM-CSF濃度が変化することも考えられています。
そこで当院では、胚移植時に用いる培養液に着床時期に必要である
細胞増殖因子であるGM-CSFと
細胞接着因子であるヒアルロン酸を
配合することで、
自然妊娠が成立する着床時期の
子宮内膜及び子宮腔内環境に
近づけることができると考えています。
<GM-CSF含有培養液を用いて胚移植が有効だと考えられている方>
ⅰ 自然妊娠しにくい方。
ⅱ 着床不全が考えられる方。
ⅲ 胚盤胞を2回以上移植しても着床しない方。
ⅳ 化学的流産または臨床的流産を2回以上繰り返す方。
(化学的流産:妊娠反応のみ陽性。その後、妊娠が継続しなかった場合。)
(臨床的流産:胎のうまたは胎児を確認。その後、妊娠が継続しなかった場合。)
ⅴ 原因不明の不妊症の方。
GM-CSF含有培養液に関してのご質問は、スタッフまでお知らせください。
尚、GM-CSF含有培養液を使用した胚移植は予約制とさせていただいておりますが、
都合により使用できない場合があることをご了承ください。
<参考文献>
Toshiki Matsuura et al. J Assist Reprod Genet. 2002 19(12): 591-595.
Seshagiri PB et al. Am J Reprod Immunol. 2016 75(3):208-217.